手羽先唐揚げ定食

加筆訂正は常にしています。

『ただしい人類滅亡計画 反出生主義をめぐる物語』を読んでの雑レビュー

  貴方は人類の滅亡に賛成しますか?

 それは道徳的な答えですか?

先日、とある書店に寄った所

前々から気になっていたが手に取る機会が無かった本

を見つけた為時間潰しを兼て購入することに。

その本がこちら。

 

『ただしい人類滅亡計画 反出生主義をめぐる物語』

〈世界人口78億人突破! 〉 どう滅ぼすか、みんなで一緒に考えよう!!!!!! ダ・ヴィンチ・恐山、小説家として待望の帰還!! 突如降誕した魔王と、集められた10人の人間たち。 読む者の“道徳"を揺さぶる、話し合いの幕が開く。                                     【あらすじ】 全能の魔王が現れ、10人の人間に「人類を滅ぼすか否か」の議論を強要する。結論が“理"を伴う場合、それが実現されるという。人類存続が前提になると思いきや、1人が「人類は滅亡すべきだ」と主張しはじめ……!?
 
反出生主義】[Antinatalism]

人間をはじめとする感覚ある存在は生まれてくるべきではない、または生まれるべきではなかったとする思想。

圧倒的センシティブなテーマを主題、副題とした単行本。この本では【反出生主義】を主軸として人類を滅ぼすか否かの議論が対話形式で展開されている。

ほとんどの人間が【反出生主義】と聞くと子供を作らない事を美徳とする偏った思想という印象だろう。もちろん私もそういう思想がある事くらいしか知らなかった為、主義の主張や理解については及ば…というか触れる事すら無かった。

しかし、そういった考え自体は古代ギリシアの時代からあり、分かりやすい例では『ミュウツーの逆襲』のあの台詞も”反出生主義”と言える。(本書後書きより引用)

f:id:Y_tesaking:20220330131040j:image

 

作者である品田遊先生もといダ・ヴィンチ・恐山もとい有実泊もといりっちゃん先生が開設しているdiscordサーバーでは専用のチャンネルが作られている。

f:id:Y_tesaking:20220330125615j:image

写真の為に覗いてみたらレスバしてて怖くて泣いちゃった。

 

…さて、

これを読んだからといって反出生主義の全てを知ったような気分にはなっておらず、また極端な思想には染まっていない事を予め述べておきたい。

一種の考えや知見として吸収しつつ、自論の補強もしくは立場変化への一歩として手に取る事をおすすめする

またネタバレにも配慮しつつ、惹かれる点や目から鱗のポイントなどを列挙していきたい。

 

①対話形式で各人物の主義・主張が理解しやすい

この作品では10人の人間が集まり、人類を滅亡させるか否かというテーマについて語り、最終的に「理」を伴った結論を魔王は受け入れるという、ディストピア世界の道徳の授業のような形式で行われる。要所要所でルールに追加や変更が行われるが「理」のある結論が運命を左右するという前提に変更は無い。

この10人の登場人物は「色」で表示されており、各人の主義が色の先入観とマッチしているように見え理解しやすいと思う。

例:ブルー悲観主義者、レッド共同体主義者、ゴールドは利己主義者etc…

十人十色といったようにある程度主張は同じでも考え方に至る経緯や経験なども異なるため自分にあてはめられる人も多いのではないだろうか。自分はパープルでした。(隙)

また、小説に限らず日本古文、英文含む語物には「主語の省略」というテストで何千人もの人を苦しめたゲボカスがあるのが普通であるが、この作品では発言には発言者の表記がある点が親切である。

例:

イエロー:じゃあ「道徳の目的」ってなんなのかしら?

ブラック:なんだと思う?なるべくシンプルに考えてみれば分かるはずだ。

オレンジ:・・・・・・「人を幸せにすること」

イエロー:たしかにそうね。人にプレゼントをあげるのは道徳的なことだけど、それは相手を喜ばせて幸せにしてあげたいからだし。

ホワイト:自分が喜びを感じることを人にも施すというのは、基本的な道徳です。

ブラック:道徳の目的はそれだけか?

ブルー:逆に、「苦痛を取り除くこと」も、道徳的な好意じゃないでしょうか・・・・・・?

オレンジ:そうね。病気を治してあげたりとか。

(中略)

オレンジ:ああ、じゃあ、道徳的な行為の道徳性は「人のために〇〇する」という部分に重心がある感じなのかもね。「幸せの実現」と「不幸の回避」は生き物の根源的な欲求だけど、その実現を他人に対しても行うのが道徳って感じ。

(中略)

レッド:ずいぶん話がそれているようだが、さっきからなにを確認しているんだ?それが人類の滅亡とどう関わってくる?実質的に当たり前のことしか言ってないように思えるが。

ブラック:そう、当たり前だ。そして俺は、この「当たり前の道徳」に基づいて、人類の滅亡を主張する。

 
②比喩の表現や具体例が汲み取りやすい
反出生主義の根幹には不幸の回避が存在する事を前提としてほしい。
 
・幸福と不幸は言葉的には相対であるため、不幸と同じ量の幸福をプラスすればチャラになるというのは間違いである。歯痛という「不幸」には宝くじに当たろうと美味しいものを食べてようと解決しない。不幸を打ち消す方法は治療であり、他の幸福ではない。
 
・レストランの前菜のスープにハエが浮いてるのに気が付いたらどうだろう。スープが美味いからハエが入っててもチャラ?美味い具材を追加してバランスを取る?ハエを取り除く?どちらにしろハエという「不幸」が美味いスープという「幸福」を大きく害する。世界の幸福よりも世界の不幸があるという事実の方が重く幸福と不幸の対称性が疑わしいのは明らかだ。
 
生殖は苦痛を味わう「かもしれない」主体が生み出され、この世に存在をはじめること。出生は人生内部の出来事ではなく、人生のレールを生じさせる出来事である。「親から生まれてこない人生」は無存在であり、トロッコのレール分岐のような例えは不適切。
 
・「世界人権宣言」の一条には「すべての人間は生まれながらに自由であり、かつ、尊厳と権利とについて平等である。人間は、理性と良心とを授けられており、互いに同胞の精神をもって行動しなければならない」とある。宗教とは関係ない道徳であり、思想として強力である。利己的な側面を回避するために「他者」が登場し、宗教も地域性も国家も関係なく道徳的な振る舞いが可能である。
 
③ブラックの筋が通り過ぎている
ブラック(反出生主義者)は議論が始まる前から「人類は滅びるべき」という主張を持っており、言ってしまえば「人類相続派」に対しての反論武器を最初から持っていることとなる。そのため滅亡派の主張が相続派の意見に対して上乗りするような印象がある。もちろんこの本が反出生主義を巡る話であるため、反出生主義視点での理論や反論が展開されている事は当然であるし、実際のディベートでも反対意見というのは重要視されるべきだと思う。人には人による正義、正義の反対は別の正義とは言ったものだ。
また虚無主義や厭世主義との違いや特有の価値観には一度触れるのも良いのかもしれない。
 
④後半から難しい~~~~~~~~~~
作者は小説家の他Webライターの仕事を持っており、特にオモコロでは万人受けするようなユーモアある書き方や独特の世界観、バズりは当然のネタツイートから知名度を上げている、The・インターネットマンである。そのためかそういった界隈の人からも高い評価を得ている。実際にTwitterAmazonでの評価は高く、入門書としておすすめされる程には取っ掛かりやすいのは事実だろう。
ここからはあくまで自分の意見であるが(18話)、人は道徳のために生きているのか辺りからめちゃくちゃ難しく感じた。原因?としては議論への参加が少なかったある色がいきなり論を持ち出して、議題的には優勢だった反出生主義に毒を仕込んだからだろうか。また手口も意見には賛成しつつ、反対意見も述べるという実際のディベートでもありがちな事を用いてくる。これが中々曲者で自分の性格の悪さを認めたうえで喧嘩腰で話すため第三者である自分でさえ混乱してくる。加えて魔王との謁見もまた難しいうえに展開が早い。おそらく立ち読み程度では理解できない。
 
⑤読者を騙す力
②のスープの例えはエスニックジョークでしか見たことないシチュエーションであったが、かなり適切な例えだと感じた。しかしその後に反論がある。
「ある不幸(ハエ)が全ての幸福(スープ)に影響を与えるような錯覚を与えている。これは詭弁である。他人の飢えも悲しみもしょせん他人の物だ。正確には世界中の人に一杯のスープが配られるとき、美味しいスープを飲める人やハエが浮いたスープを渡される人がいる。滅亡派はハエ入りを飲む人が可哀そうだから全員捨てろという主張をしているがこれは極端でおかしい。」
これもその通りだ。「不幸な人が生まれるのを避けるため子供を作らない」というのは「これから生まれる子供が幸福になるかもしれない」という可能性を消してしまっているのだから。
 
…しかし、
「スープの比喩はあくまで幸福と不幸の性質の違いの例であり、存在と非存在にスープのような具体的な例を応用すると非存在の方に喪失のニュアンスが生じてしまう。」
「これから生まれる子供」というのは子供を作らない限り存在しない。そもそも作らなければ舞台裏にさえいない事である。非存在であり、可能性でしかない。スープの例えを用いてしまうと舞台裏にはいたのに出ること無く幕を終えたという風に捉えられる。これも②のトロッコにおけるレールのはじまりの例につながる。
生まれなかった子供を「かわいそう」と言えるのなら子供を作らない夫婦への糾弾も可能だし、あらゆる生まれなかった子供への追及も可能だ。しかし皆それをしない。
…圧倒されてしまった。自分がいかに抽象的なものが苦手かを。比喩に頼っていたかを
 
読んだこと無い人や出生主義…というか一般的な考えの人は
殺人の肯定だ」「生殖は本能」「人に主義を押し付けるな」「不幸は人による」といった疑問もあるだろうが、これら含む疑問には反出生主義の立場から合理性を持った見解が述べられている。
 
 
◆総括◆
反出生主義】は道徳的観点に基づいた人道的な主張である事を教えてくれる。一部の情報だけを毛嫌いするだけでは無くて、広い視野を持つことの重要さや道徳への美観について考えることができる一冊だ。
 
 
おまけ

雑レビューと銘打っておいて自分のブログ内でもだいぶ真面目な内容になったと思う。それほど衝撃的な一冊だった。

直近まで[ハンシュッセイシュギ]と読んでましたが[ハンシュッショウシュギ]らしいです。

あっ、Twitterでの検索はおすすめしません。
「子供が嫌いだから子供を産むな」「男が生まれるから生むな」レベルの人がいます。とは言え子供の騒音であったり事故にあった人や痴漢、レイプ被害者の意見としてでなくても正義の一つです。意見なので尊重s…
 
ああああああああああああああ~~~~~~~~~w
すみませんネットの毒をため込みすぎてしまいました。眩しい闇の訪れと共にさようなら。